最後の預言者、即ち預言者の封印であるム ハンマドは、その短い生涯の終わりに、多く の仲間とともにメッカへと旅立った。イスラ ームの5つの柱のうちの1つである、巡礼(ハ ッ ジ )を 行 う た め で あ る 。そ し て 巡 礼 の 中 、 632年3月8日、アラファトの山上で、約12万 4千人のムスリムを前に演説を行った。これ はかの有名な預言者の別れの言葉であり、 裁きの日まで人類を導くこととなる、普遍的 な人権宣言のようなものである。
『別れの説教』より:
「すべての称賛と感謝は、アッラーのもの である。」我々は、アッラーを讃え、アッラー に助けを求め、赦しを求め、アッラー唯独り に心を向ける。我々は、自らの我欲や罪深 い行いといった悪から遠のくよう、アッラー に庇護を求める。私は、アッラーの他に崇 拝に値する神は存在しないことを証言し、 ムハンマドがアッラーのしもべであり、使者 であることを証言する。
アッラーのしもべたちよ。アッラーのしもべ たちよ、私はあなたたちに、アッラーを畏れ 、アッラーに服従し、屈服することを勧める 。こうして私は、みなにいくつかの助言をし たい。
人々よ。私の言葉に耳を傾けよ。ともすると 来年には、我々はこの世から永遠に旅立 つかもしれない。
人々よ。祝福された日(アラファの日)のよ うに、祝福された月(ズゥ・アル・ヒッジャ)の ように、祝福された都市(メッカ)のように、
あなた方の生命、財産、純潔は、同様に祝 福 さ れ 、不 可 侵 で あ り 、い か な る 攻 撃 か ら も守られる。
我が仲間たちよ。明日、あなた方は主にお 会いし、今日行ったことの責任を問われる だろう。
我が仲間たちよ。借りたものは持ち主に返 さなければならない。その仲介のために預 か っ た も の も 、持 ち 主 に 返 さ な け れ ば な ら ない。借金は返さなければならない。誰か の借金を請け負った保証人も、その借金を 払わなければならない。何かを預かってい る人間は、誰であろうとその持ち主に返す べきである。あなたの主であるアッラーを 畏れ、彼に仕えなさい。日に5回の祈りを確
実に行いなさい。ラマダーン月には断食し 、ハッジを行い、善良な心で自分の財物の ザカート(義務による施し)を与えなさい。 統治者がアッラーの神聖な書物に従って い る 限 り 、統 治 者 に 従 い な さ い 。そ う す れ ば、あなたの主の楽園に入ることが出来る だろう。
我が仲間たちよ。あらゆる種類の利息は取 り 除 か れ た 。今 や 私 の 足 元 ほ ど の 価 値 も な い 。し か し 、元 の 債 務 は 返 さ な け れ ば な らない。抑圧してはならないし、抑圧されて もならない。高利貸しは、アッラーの命令で 禁 止 さ れ て い る 。無 明 時 代 か ら 引 き 継 が
れてきたこのような醜い習慣のすべては、 私の足元ほどの価値もない。私が最初に 取 り 除 く 利 子 は 、ア ブ ド ゥ ル ・ ム ッ タ リ ブ の 息子である、我が叔父アッバースの利子で ある。無明時代に存在した血縁関係は、す べ て 取 り 除 か れ た 。私 が 取 り 去 っ た 最 初 の 血 縁 関 係 は 、ア ブ ド ゥ ル ム ッ タ リ ブ の 孫 娘である、ラビーアの血縁関係である。無 明時代から続く、メッカの街に関する政府 の義務は廃された。ただし、カアバの守護 と巡礼者に水を配る奉仕はその対象外で ある。
人々よ。今日を以って、悪魔はあなたがた の国を再び支配する力を永遠に失った。し かしながら、私が禁じたものは別として、あ なた方が小さなことであると思われること で あ っ て も 彼 に 従 う な ら ば 、そ れ は 彼 を 喜 ば せ る こ と に な る 。自 分 の 宗 教 を 守 る た め に、これらを避けなさい。
人々よ。女性の権利を尊重し、この点でア ッラーを恐れるように助言する。あなた方 は、女性をアッラーからの信託として受け 取り、アッラーの名の下に約束(結婚)をす ることで、女性の良識をハラール(許される もの)としたのである!女性は、あなた方と 同じように、あなた方に対する権利を持っ ている。あなたが女性に対して権利を持っ ているように、女性もあなたに対して権利 を持っているのだ。女性に対するあなたの 権利は、女性が貞節を守ることと、あなた が同意しない者をあなたの許可なくして( あなたの寝床を踏みにじらせてはならな い)ことです。また、女性もまたあなたに対 する権利を持っている。合理的でよく知ら れた手段の範囲内で、彼女たちに衣食住 を 提 供 す る の は あ な た の 義 務 で あ る 。女 性には最善の方法で接しなさい。
真の信者たちよ。私の言葉をよく聞き、決し て忘れるな。一人のムスリムは他のムスリ ム の 兄 弟 で あ り 、そ れ ゆ え す べ て の ム ス リ ム は 兄 弟 で あ る 。信 仰 す る 兄 弟 に 存 す る 権利に干渉することは、ハラールではない 。ただし、その者が自らそれを望んだ場合 は例外である。
我が仲間たちよ。自らをも苦しめてはなり ません。あなたの自我もあなたに対して権 利を持っているのである。誰もが自分自身 の罪に責任を負うのみである。父も子も、 互いの罪に責任を持つことはできないの だ。
私 の 後 に 再 び 過 去 の 堕 落 へ と 転 じ 、互 い に首を取り合うようなことは絶対にしては ならない。私はあなた方に、あなた方がし っかりと握っている限り、道を踏み外すこと のないようなものを残す。その信託とは、ア
ッラーの神聖な書物である聖クルアーン、 そして預言者のスンナである。この場にい る人々は、私の遺言をこの場にいない者ど もに伝えなさい。伝えられた人は、私と共に ここにいた人よりもよりよく理解し、それを 守って生きていくことができるかもしれな
い。
人びとよ。あなた方には,一の主と一人の 祖先がいる。あなた方は皆,アダムの子孫 であり,アダムは塵から創られた。アッラー の前で最も尊敬され、価値があるのは、自 分の責任を最もよく理解し、タクワー(アッ
ラーへの深い畏敬の念)を持つ者である。 アラブ人は非アラブ人に対し、何の優位性 も な い 。ま た 、非 ア ラ ブ 人 は ア ラ ブ 人 よ り も 優位に立つことはない。白い肌の人が黒 い肌の人に優ることはないし、他の者も同 じである。だれが優れているかは、アッラー に対する尊敬の念の大きさによってのみ計 られる。
この後、預言者は言われた。「明日、この場 に居ない人々は、私について尋ねるであろ う。お前たちはどう答えるのか。」教友らは、 「我々は、あなたがアッラーの預言を伝え、 預言者としての使命を果たし、あなたの意 志と助言とを我々に与えてくださったこと を証言します。預言者ムハンマドは、人差 し指を天に向け、このように言われた。「我 が主よ、証人となりたまえ。主よ、証人とな
りたまえ。我が証人となりたまえ!」